投資対象やマーケットの何を分析するかによって、テクニカル分析にはいろいろな手法があります。ここでは、代表的なものを取り上げて概要を説明します。
トレンド分析
価格推移の方向を見る手法をトレンド分析といいます。テクニカル分析の中では、最も古くからある手法で、経済学から派生した統計学の手法を、株価分析に転用したものだと推測されます。
絶対に儲かる投資対象や投資戦略は存在しませんから、投資家にできることは利益額の最大化と損失額の最小化を心がけることです。例えば、トレンドフォロー戦略の場合、価格が上昇トレンドに入ったことを確認したときに買い、上昇トレンドが続いている間はそのまま保持し、下降トレンドに転じたらいち早く手仕舞うのが理想です。
しかし、上昇トレンドであっても価格は常に上下します。どこまで下がったら下降トレンドに転じたと判断すればよいのか迷います。そこで考案されたのがトレンド分析です。トレンド分析は、トレンドが継続しているか、あるいは反転したのかを判断する手掛かりを与えてくれます。
トレンドラインや移動平均のように価格チャートの中に追記して利用するものと、DMI(Directional Movement Index、方向性指数)や移動平均乖離率などのようにトレンドの強弱を数値で表す指標もあります。後者は、価格と指標の水準が合わない場合が多いので別のグラフとし、時間軸を合わせて上下に並べて表示するのが普通です。現在でも多くの指標が使われています。
トレンド分析の長所は、直感的でわかりやすいことですが、価格推移が短期間で上下するような場面では追随できずに損失が発生しやすいという弱点があります。ただ、このような往来相場に入ったかどうかは、チャートを見ていれば気がつきます。
オシレーター分析
オシレーターとは発振器という意味です。価格推移の中から不要な変動を除去し、周期的な上下動を抽出するように作られています。狭義のオシレーターは、0~100や-100~+100など決まった範囲内で往復を繰り返します。一方、広義のオシレーターは同じように上下を繰り返しますが、上限や下限の値がありません。当初は価格推移の行き過ぎを検知するものがほとんどでしたが、最近ではトレンドの有無や強弱を検知するものもあります。
世界で最初に考案されたオシレーターは、おそらく、ジョージ・C・レーン(George C. Lane)が1957年に発表したストキャスティック・オシレーター(Stochastic Oscillator)でしょう。この指標は、当日の終値が一定期間の最高値と最安値の間でどのくらいの位置にあるかを0~100%の値で表します。ストキャスティクスと短縮された名で現在も使われています。
次いで、J・ウェルズ・ワイルダー・ジュニア(J. Welles Wilder Jr.)は、1978年に「New Concepts in Technical Trading Systems」 でRSI(相対力指数、Relative Strength Index)やDMI(方向性指数、Directional Movement Index)などのオシレーターを紹介しました。このうちRSIは、一定期間の終値の前日比騰落幅を見たときに、上昇幅の合計がすべての騰落幅の合計に対してどのくらいの割合になるかを0~100%の値で表します。現在も人気のある指標です。
オシレーター分析の長所は、シグナルに利用者の主観が入る余地のないことです。しかし、価格の行き過ぎを検知するオシレーターでは、トレンドの勢いが強い場合に指標が上限や下限に張り付いてしまって騙しのシグナルを出すという弱点があります。また、トレンドを検知するオシレーターでは、小幅で揉みあう相場には対応できない場合があります。ただ、これらの騙しは、行き過ぎを検知する指標とトレンド分析を併用すれば、避けることができます。
オシレーターは指標を算出するための計算量が多いので、コンピューターの普及とともに発展しました。現在でも新しいオシレーターが考案され続けています。
サイクルトランスレーションの図 Walter Bressert, 1991 The Power of Oscillator / Cycle Combinations: How to Combine Oscillator and Cycle Analysis to Improve Market Timing and Profits in the Futures Marketsよりサイクルトランスレーションの図 Walter Bressert, 1991 The Power of Oscillator / Cycle Combinations: How to Combine Oscillator and Cycle Analysis to Improve Market Timing and Profits in the Futures Marketsよりサイクル分析
サイクル分析には2種類あります。1つは、価格推移には周期的な変動があり、この相場サイクルに合わせて投資への参入や撤退のタイミングを判断しようとするものです。もう1つは、音声通信で用いる、途中で混入する雑音を除去するフィルターの考え方を応用するものです。価格推移から雑音的な変動を取り除き、本質的な価格推移に基づいて投資への参入や撤退のタイミングを判断しようとするものです。
前者の発端となったのはJ・M・ハースト(J. M. Hurst)で、1970年に「The Profit Magic of Stock Transaction Timing」 https://archive.org/details/profitmagicofsto0000hurs を出版し、物理学の波動の概念を株価推移の分析に応用した独自のサイクル分析を発表しました。
また、ウォルター・ブレザート(Walter Bressert)は、トレンドによって2つの谷に挟まれた山の位置が左右にずれる「サイクル・トランスレーション」に気がつくなど、ハーストのサイクル分析を精緻化しました。1991年には「The Power of Oscillator / Cycle Combinations: How to Combine Oscillator and Cycle Analysis to Improve Market Timing and Profits in the Futures Markets」を発表し、詳細を紹介しています。
一方、後者では、ロケットサイエンティストで個人トレーダーでもあったジョン・F・エーラーズ(John F. Ehlers )の分析が秀逸です。1978年にデジタル信号処理技術を応用した最大エントロピースペクトル分析(MESA)による移動平均を考案し、システムを販売ました。また、2004年には「Cybernetic Analysis for Stocks and Futures: Cutting-Edge DSP Technology to Improve Your Trade」 を出版し、その他の独自手法をコンピューター・プログラムのソースコード付きで紹介しています。
また、1980年代に弊会元理事長の江田稔は債券価格の分析にウェーブレット解析を応用し、債券投資に利用して成果を上げていたとのことです。この分野の研究は現在も続いているようで、インド情報技術大学アラハバード校のスディプタ・ダス(Sudipta Das)博士は、2021年に「原油価格、株式収益率、為替レートの時間・周波数関係(The Time–Frequency Relationship between Oil Price, Stock Returns and Exchange Rate)」という記事をJuly 2021Journal of Business Cycle Research 17(2):129-149 (July 2021)に掲載しています。
前者は、利用者の主観が入りやすく、コンピューターを使ったバックテストで効果や長所、短所を確かめることはできません。従って、前者の分析結果については「そういう考え方がある」程度に、少し割り引いて受け取る必要があります。
一方、後者は、主観が入らない利点があり、バックテストによって最適化や投資対象との適合性などを確認することができます。従って、十分な検証を加えた後であれば、後者の方が実用的といえます。しかし、計算方法の難しい指標も多いので、ITスキルに自信のない人にはハードルの高い手法になるかもしれません。
出来高分析
出来高分析は、出来高の推移を分析するものです。古くから、価格推移と出来高の推移には、関係があると考えられてきました。株式市場に深い見識を持っていたチャールズ・H・ダウ(Charles H. Dow)は、「トレンドは出来高でも確認されなければならない」と考えていたとされます(*1)。
実際のマーケットを観察してみると、価格の上昇する場面で出来高も高水準で推移したり、価格が低迷する場面で出来高も低水準で推移することは珍しくありません。時には、価格の上昇が始まる少し前から出来高が増加し始めるケースもあります。
1963年、ジョセフ・グランビル(Joseph E. Granville)は、「New key to stock market profits」 を出版し、前日比で株価が上昇していれば買い方の注文、下落していれば売り方の注文と考えて累積する、オンバランス出来高(On Balance Volume)を紹介しました。
ジェームズ・シベット(James Sibbet)は、需要指数(Demand Index)を考案しました。1986年に、トーマス・アスプレー(Thomas E. Aspray)がシベットの指数の改良版を紹介しているので、シベットが開発したのはそれより前ということになります。計算過程がとても複雑なのですが、表計算ソフトがない時代ですから、シベットは電卓でこの指標を考え付いたのでしょうか。
1989年になると、ジーン・クォン(Gene Quong)とエイブラム・サウダック(Avrum Soudack)は、相対力指数(RSI)に出来高の要素を加味したマネーフロー指数を考案し雑誌に発表しました(Volume Weighted RSI; Money flow : Stocks and Commodities Magazine, Vol.7-3 76-77, Technical Analysis Inc.)。
また、アレキサンダー・エルダー(Alexander Elder)博士は1993年に「Trading for a Living - Psychology, Trading Tactics, Money Management」を出版し、勢力指数(Force Index)を紹介しました。
*1:ジョン・J・マーフィー著, 日本興業銀行国際資金部訳, 1990, 「先物市場のテクニカル分析」, (社)金融財政事情研究会
市場趨勢分析
英語ではマーケット・ブレドス(Market Breadth)といい、直訳すれば「市場の広がり」となります。意味としては「投資家がどれだけ幅広く銘柄を物色しているか」ということのようなので、「市場趨勢」という言葉を当てておきます。
例えば、市場で取引されている銘柄のうち、現在上昇トレンドにある銘柄の割合が多ければ、市場全体に強気が広がっていることになります。このようなときには、買いで利益を得られるチャンスが多いかもしれません。一方、下降トレンドにある銘柄の割合が多ければ、市場全体に弱気が広がっていることになります。このようなときには、買いを見送った方が良いかもしれません。
これをもう少し細分化して、特定の業種の強気の比率を市場全体の比率と比較すれば、どの業種に人気が集まっているのか、あるいは離散しているのかが分かります。投資先を探すのであれば、人気が集まっている業種の方が有利かもしれません。しかし、比率の1番高い業種で人気が過熱しているようなら、2番手の業種を探した方が良いかもしれません。
このように、市場趨勢分析では、市場全体や特定の業種が投資に適した環境となっているかどうかを知ることができます。
どのように計算するかというと、例えば、上昇トレンドにある銘柄の株価は、移動平均を上回る水準で推移しているはずです。そこで、市場で取引されているすべての銘柄について移動平均を計算し、価格と比較します。価格が移動平均を上回っている銘柄の数を求め、全体の銘柄数で割って比率を求めます。これを毎週計算してその推移をみて、市場全体の物色動向の変化を推測します。
日本経済新聞の朝刊には、値上がり銘柄数や値下がり銘柄数、新高値銘柄数や新安値銘柄数、騰落レシオなどの市場趨勢指標が掲載されています。これを記録しておけば、一部の指標については自分で計算することができます。
しかし、上昇トレンドにある銘柄の割合などは、全銘柄の株価データが必要になります。金融情報ベンダーなどのサービスを使わないとデータの入手が難しいですし、データ量と計算量が膨大になるので、高性能のパソコンも必要になります。どちらかというと、機関投資家向きの手法といえるでしょう。
青木伝吉が紹介したパターン分析(著者実験定期売買之秘伝)青木伝吉が紹介したパターン分析(著者実験定期売買之秘伝)パターン分析
特徴的な価格推移に注目して、その後の展開について経験則をまとめたものが、パターン分析です。日本では1901年に青木伝吉が「著者実験定期売買之秘伝」 を書き、その中で三尊佛、毛抜き、閂、三段上下などのパターンを紹介しました。
本間宗久が使っていたとされるパターン分析(相場罫線術講義)本間宗久が使っていたとされるパターン分析(相場罫線術講義)また、1904年に出版された本間宗久著、葛岡五十香増補、石川善兵衛増補、早坂二菊(豊蔵)講義、福田正風執筆の「相場罫線術講義」 では、現在では全く使われない独特のパターンが紹介されています。
このほか、1910年になると井上揚三郎が「定期相場高低罫線推理法」 を書き、その中で、包み線、はらみ線、行き違い線、出会い線、たすき線に相当するものを図解しました。ただし、名前は付けていません。
一方、米国では1932年にリチャード・W・シャバッカー(Richard W. Schabacker)は「Technical Analysis and Stock Market Profits」 を出版して、様々なパターン分析を詳しく解説しました。
1948年になると、ロバート・D・エドワーズ(Robert D. Edwards)、ジョン・マギー(John Magee)、W・H・C・バセッティ(W.H.C. Bassetti)らは「Technical Analysis of Stock Trends」を出版し、シャバッカーのパターン分析を再び紹介しました。欧米でのテクニカル分析の入門書として広く普及したため、欧米ではこの本でパターン分析を知った人も多かったはずです。
さらに、1999年になるとトーマス・N・バルコウスキー(Thomas N. Bulkowski)が「Encyclopedia of Chart Patterns」を出版し、500銘柄について1991年から5年シャバッカーのパターン分析(Technical Analysis and Stock Market Profits)シャバッカーのパターン分析(Technical Analysis and Stock Market Profits)間、特徴的なパターンと出現する局面、その後の騰落を調べ、確率を紹介しました。パターン分析では唯一、事実関係を調査した書物です。
バルコウスキーの本を除き、ほとんどのパターン分析は、執筆者の主観に基づく経験則を紹介したものといわざるを得ません。日本では、パターン分析に基づいて投資を行って、継続的に収益を挙げている人はいないと思います。価格推移の状況を説明するには便利ですが、利用する場合には「そういう考え方もある」程度の受け止め方にした方が良いでしょう。
