株価などの価格推移をグラフにしたものを、チャートといいます。古くは罫線といいました。1900年ごろまでは、日本でも米国でも、終値を結んで折れ線グラフ(日本では星足といいました)にしたり、垂直線と短い横線を組み合わせてカギ形に結んで描いていました。
また、日中の価格変化を表すため、1日ごとに高値と安値を結んだ垂直線を描く、棒足も日米で使われていました。その後日本では、始値の位置に「〇」、終値の位置に始値より下がっていれば「V」、上がっていれば「Λ」を描き加えた棒足が一般的になりました。
このほか、日本では陰陽五行思想が普及していたので、終値が始値より値上がりした日の足を陽線、値下がりした日の足を陰線と呼び、始値と終値の印を付けた棒足は、日々の騰落が分かるので陰陽引(陰陽足)と呼ばれました。たまにローソク足のことを陰陽足という人がいますが、ローソク足は陰陽足の中の1つであって、陰陽足にはローソク足以外の描き方もたくさんあります。ここでは、現在使われている代表的なチャートをご紹介します。
ローソク足とバーチャート
ローソク足とバーチャートは、株価推移を表現する方法として、世界で最もポピュラーな方法です。

ローソク足の描き方:始値から終値まで長方形を描き、この部分を「実体」と呼びます。実体の上端から最高値まで線を引き、上影と呼びます。また、実体の下端から最安値まで線を引き、下影と呼びます。上影のことを上ヒゲ、下影のことを下ヒゲと呼ぶことがありますが俗称です。始値より終値が高ければ実体を赤で塗りつぶし、上下の影も赤で描きます。終値の方が低ければ黒で塗りつぶし、上下の影も黒で描きます。赤の線を陽線、黒の線を陰線といいます。白黒で描く場合は、陽線は外枠と影を黒で描き、実体は白抜きにします。陰線は全部黒で描きます。このほか最近では、陰線を青または緑で描くこともあります。

バーチャートの描き方:最安値から最高値まで縦線を引きます。終値の位置には、縦線から右へ短い横線を引きます。始値の位置には、縦線から左へ短い横線を描きます。カラーで描く場合は、陽線は緑、陰線は赤で描きます。日本とは反対の色遣いとなりますから注意してください。当初、バーチャートでは始値を描きませんでしたが、それは、チャールズ・ダウが始値を重視していなかったためと思われます。最近、始値を描くようになったのは、ローソク足が普及したからでしょう。
ローソク足の考案者はよくわかっていませんが、1910年に井上揚三郎が「定期相場高低罫線推理法」(国立国会図書館デジタルコレクション)で紹介した、実体を太い矢印で描き、影を点線で描く方法が発端だと思われます。1914年には早坂豊三が、「相場大罫線学」(国立国会図書館デジタルコレクション)で、「寄止錨足」に改良し、1920年には井上三昧(広吉)が「足取の原理」(国立国会図書館デジタルコレクション)の中で「蝋燭引(ろうそくびき)」として書き方を紹介しています。従って、ローソク足の成立年次は1910年代、つまり大正時代の可能性が高そうです。
バーチャートが紹介された最初の本は、おそらくリチャード・W・シャバッカー(Richard W. Schabacker)が1932年に出版した「Technical Analysis and Stock Market Profits」(Google Books)だと思われます。同じ時期に出版されたリチャード・D・ワイコフ(Richard D. Wyckoff)の「Stock Market Technique」には図版がないので、シャバッカーが考案者かもしれません。
ローソク足については、1本の足の解釈や2本の足の組合せの解釈がいろいろなされています。しばしば、その出典として「酒田五法」が挙げられますが、本間宗久の遺訓とされるもの((*1))に関連する記述がないことや、明治~昭和初期の時代に「酒田五法」について書かれた本は見当たらないことから、「酒田五法」が第2次世界大戦後に創作されたものである可能性があります。「酒田五法」は、過去の経験則かもしれませんが、現在の市場での出現確率に基づいたものではありません。「巷にはそういう解釈がある」という程度の認識にとどめた方が良いでしょう。
実際の出現確率に興味のあるかたは、トーマス・バルコウスキー(Thomas N. Bulkowski)が2008年に出版した「Encyclopedia of Candlestick Charts」(Google Books)を参考にされると良いでしょう。
*1:米界大王日本長者五家之一庄内酒田港本間家秘蔵宝書 訂3版」(1902、本間宗久著、早坂豊三編、旭商会)(国立国会図書館デジタルコレクション)
「相場罫線術講義 : 出羽酒田港本間家秘法」(1904、本間宗久著、葛岡五十香・石川善兵衛増補、早坂二菊述、福田宇吉)(国立国会図書館デジタルコレクション)
「宗久翁相場全集」(1910、本間宗久著、早坂二菊編、信義堂)(国立国会図書館デジタルコレクション)
「荘内本間宗久翁遺書」(1894、早坂豊三編、鈴木喜八)(国立国会図書館デジタルコレクション) など。
カギ足
漢字で書くと「鉤足」で、物を吊るすときに用いる「フック」のことです。明治時代以前の日本では、価格推移を斜線でつないだ「折れ線グラフ」で表わすのではなく、カギ型につないで表示する方法があったようです。1904年に出版された「相場罫線術講義 : 出羽酒田港本間家秘法」(本間宗久著、葛岡五十香・石川善兵衛増補、早坂二菊述、福田宇吉)(国立国会図書館デジタルコレクション)には、その当時利用されていた描画法がいくつか紹介されていますが、その中に鉤形法が紹介されています。

同じ描き方は、1900年代前半の米国にもあったようで、ビクトール・ド・ビリエ(Victor deVilliers)が1933年にポイント&フィギュアを解説した「The Point and Figure Method of Anticipating Stock Prices: Complete Theory & Practice」 Internet Archive の中にジオメトリック・チャートという名でカギ形のチャートが紹介されています。
一方、ここで紹介するカギ足はそれとは異なり、線を折り返すときに「事前に決めた値幅(変化率)以上逆行したら列を変えて折り返し、それ未満の小さな逆行はなかったことにする。」というルールで描く方法です。例えば、上昇トレンドで高値を更新すれば線を上へ伸ばし、下降トレンドで安値を更新すれば線を下へ伸ばします。そして、事前に決めた値幅(変化率)以上逆行したら列を変えて折り返し、その価格まで線を引きます。それ以外の場合は、何もしません。事前に決める値幅(変化率)のことを転換ルールといい、適切な大きさに調節できるかどうかで投資の成否が決まります。
この書き方を最初に紹介した本は前出の「相場罫線術講義」で、本間宗久が使っていた陰陽切替罫線(別名酒田足)だとしています。もっとも、「株式期米相場経済学」(1909、早坂豊三著、信義堂)(国立国会図書館デジタルコレクション)を見ると、この罫線を考案したのは、本間宗久の弟子で荘内鶴岡の酒造家である葛岡五十香だとしています。前出の本間宗久の遺訓とされるものには罫線に関する記載がないので、考案者は葛岡五十香なのでしょう。

カギ足では、上昇から下落に転じたピークの部分を「肩」、下落から上昇に転じたボトムの部分を「腰」といいます。そして、カギ足が上昇して直前の「肩」を上回った場面を強気相場入りのシグナル、下落して直前の「腰」を下回った場面を弱気相場入りのシグナルとするのが基本的な解釈です。
明治時代以来の長い間に、その時々の経験則をもとに様々なパターンや解釈方法が考案されています。しかし、現在の市場で出現確率や価格変化率などを検証したものではないので、そのまま現在の相場に当てはまるとは考えない方が良いでしょう。
カギ足は、柴田罫線やタマル式チャートとして、一部の愛好家に現在でも使われていますが、EXCELのグラフ機能で描画することはできないので、専用ソフトを使うか自分でマクロを組む必要があります。
一方、パソコンを使ってバックテストができ、カギ足と相性の良い銘柄で転換ルールを最適化すれば、利益を上げることができると考えられています。ただし、すべての投資対象がカギ足と適合するわけではなく、最適な転換ルールも投資対象によって異なり、さらに投資対象のボラティリティが変化すれば転換ルールも調整が必要になる可能性があるので、事前のバックテストは必須です。

図は、2023年の年初から2024年の年末までの日経平均日足の推移を、1%以上逆行したら転換させるルールで、強気相場をピンク、弱気相場を紺で表示しています。値動きが小さいときには何も書かないので、時間の間隔は等間隔にはなりません。
仮に強気相場入りで買い建て、弱気相場入りでは買いを手じまってカラ売りをしたとすると、この期間では強気相場の利益が大きかったので、弱気相場での損失をカバーできたかもしれません。
ポイント・アンド・フィギュア(P&F)
P&Fは、価格推移を「〇」と「×」で記録するという、独特の外観をしたチャートです。海外では根強い愛好家がいますが、日本でP&Fチャートを提供しているのは、一部のFX取引業者に限られるようです。
P&Fの起源は、1800年代末にチャールズ・ダウ(Charles H. Dow)が用いていたブックメソッドだとされています。1903年にS.E.ネルソン(S. E. Nelson)が「The ABC of Stock Speculation」 https://dn790000.ca.archive.org/0/items/abcofstockspecul00nelsiala/abcofstockspecul00nelsiala.pdf を出版して、ダウのブックメソッドについて紹介しています。ブックメソッドは、方眼紙の縦軸を価格とし、1枠(1ポイントという)を1ドルとして、終値を数字で記録していきました。価格が同じ方向に動いているときは列を変えずに、価格が1枠分変化するごとに上下方向に記録し、価格が1枠以上逆行した時は右隣へ列を変えてその価格まで記録しました。
1933年になると、ビクトール・ド・ビリエ(Victor deVilliers)は「The Point and Figure Method of Anticipating Stock Prices: Complete Theory & Practice」 を出版して、手法をポイント&フィギュアと名付け、記録方法は基本的にブックメソッドと同じだが、数字の代わりに「×」を用い、5で割り切れる価格の枠には価格の下1桁を数字で記録するとしました。このほか、列を変えるときのルールとして1枠の逆行だけでなく、3枠や5枠を用いる方法も紹介しました。
1947年、A・W・コーエン(A. W. Cohen)は「How to Use the Three-Point Reversal Method of Point & Figure Stock Market Timing」を出版し、価格の上昇時には「×」、下落時には「〇」を用い、3枠転換で描画するチャートクラフト法発表しました。これが、現在のP&Fの基礎となっています。
チャートクラフト法の描き方は、1枠の大きさを価格の1~5%程度のキリの良い数字とし、転換に必要な枠数は3枠の逆行とします。上昇トレンドであれば、価格が1枠以上の値幅を上昇するごとに「×」を同じ列の上へ描き加え、現在描かれている枠の下端の価格から3枠以上の値幅で下落したら列を右隣りへ移し、直前の「×」より1つ下の枠から「〇」を下へ描きます。
下降トレンドであれば、1枠以上の値幅を下落するごとに「〇」を同じ列の下へ描き加え、現在描かれている枠の上端の価格から3枠以上上昇したら列を右隣りへ移し、直前の「〇」より1つ上の枠から「×」を上へ描きます。カラーで描く場合には「×」は青または緑、「〇」は赤で描きます。色遣いが日本と反対になるのは他のチャートと同じです。
解釈は、上昇時に2列左の「×」列の一番上の枠より1つ上の枠に「×」がついたら買い、下落時に2列左の「〇」列の一番下の枠より1つ下の枠に「〇」がついたら売りというのが基本です。つまり、直前の山の高値を上回ったら買い、直前の谷の安値を下回ったら売りという、新値更新に追随する戦略です。
歴史のある手法なので、様々なパターン分析や反転後の価格変化幅の計算方法などが考案されていますが、当たる確率は投資対象や状況によって変わる可能性が高いので、参考程度にとどめた方が良いでしょう。
カギ足と同様、EXCELのグラフ機能で描画することはできないので、専用ソフトを使うか自分でマクロを組む必要があります。一方、パソコンを使ってバックテストができ、P&Fと相性の良い銘柄で転換ルールを最適化すれば、利益を上げることができると考えられています((*2))。ただし、すべての投資対象がP&Fと適合するわけではなく、最適な転換ルールも投資対象によって異なり、さらに投資対象のボラティリティが変化すれば転換ルールも調整が必要になる可能性があるので、事前のバックテストは必須です。

図は、2024年の年初から年末までの日経平均を、1枠100円、3枠転換のルールで描いたP&Fです。反転している「×」が強気転換、反転している「〇」が弱気転換を示しています。仮に強気転換で新規に買い建て、弱気転換で買いを手じまって、新規に空売りをしたとすると、ほぼすべてのトレードで損失になったことが分かります。エントリーのタイミングとしては使えたとしても、ポジションの手じまいには別のシグナルが必要であることが示唆されます。また、ほかの年を調べても満足のいく結果が得られないようなら、日経平均の日足とP&Fは相性が良くないと考えて、他の手法を使うことを検討した方が良いかもしれません。
*2 Heinrich Weber, Kermit Zieg, 2003 「The Complete Guide to Point-and-Figure Charting: The New Science of an Old Art」, Harriman House Ltd
新値足
新値足は、井上揚三郎が1910年に出した「定期相場高低罫線推理法」(国立国会図書館デジタルコレクション)で「新直引」として紹介したのが最初です。当時は、新値を更新するごとに描き足す方式のチャートを新値引と呼んでいたようですが、井上揚三郎の図と説明は、現在の新値1本足と同じものです。なお、当時の書物を見ると当て字が結構多く、「直」も「値」の当て字と思われます。

1916年になると、阿部熹作が「米株罫線学の粋」(国立国会図書館デジタルコレクション)を出版し、「新直引」として新値1本足について少し詳しく解説しました。しかし、明治時代~昭和初期の書物には、新値3本足に関する記述が見当たらないことから、現在使われる新値3本足は、第2次世界大戦後に考案されたものかもしれません。
新値3本足の描き方は、以下のようなものです。上昇トレンドの場合は、そのトレンドの中での新高値を更新するたびに列を右隣りへ移動し、直前の足の高値から現在の高値までを陽線として描きます。陽線は、白黒で描く場合は、黒枠で白抜きの四角形を描き、カラーの場合は赤枠で白抜きとします。
価格が3本前の足の安値を下回ったら、下降トレンドに入ったとみなして列を右隣りへ移動し、直前の足の安値から現在の安値まで陰線を描きます。これを陰転といいます。3本前の足を転換の基準にするので「3本足」で、1本前を基準とするなら「1本足」、5本前なら「5本足」です。高値の更新がない場合や、価格の逆行が3本前の安値に届かない場合は、何もしません。陰線は、白黒で描く場合は黒く塗りつぶした四角形を描き、カラーで描く場合は青や紺で塗りつぶします。
同様に、下降トレンドの場合は、そのトレンドの中での新安値を更新するたびに列を右へ移動し、直前の足の安値から現在の安値までを陰線として描きます。
価格が3本前の足の高値を上回ったら、上昇トレンドに入ったとみなして列を右隣りへ移動し、直前の足の高値から現在の高値まで陽線を描きます。これを陽転といいます。安値の更新がない場合や、価格の逆行が3本前の高値に届かない場合は、何もしません。

売買タイミングは2通りあり、1つは、下降トレンドで3本前の高値を上回ったら買い、上昇トレンドで3本前の安値を下回ったら売るというものです。つまり、陽転1本目の途中で買い、陰転1本目の途中で売ることになります。もう1つは、陽転を確認して2本目の形成が始まるところで買い、陰転を確認して2本目の形成が始まるところで売るというものです。
新値足は、現在も使う人がいますが、カギ足などと同様でEXCELのグラフ機能では描けません。新値足を提供しているサービスを利用するか、自分でマクロを組むしかありません。
一方、パソコンを使ってバックテストができ、相性の良い銘柄を選べば、利益を上げることが可能であると考えられています。ただし、すべての投資対象が新値足と適合するわけではなく、事前のバックテストは必須です。また、投資対象の価格推移が中途半端な値幅での往来相場になると損失が出やすいので、価格推移の動向に変化がないか、監視している必要があります。
下図は2024年の日経平均日足終値で描いた新値3本足を、シグナルの位置で色分けしたものです。ピンクの部分が買いポジション、紺色の部分は売りポジションです。これを見ると、値幅が大きく動いた場面では利益が出ますが、シグナルが出た後の変化幅が小さい場合は損失になりやすいことが分かります。このように、バックテストをし、売買タイミングを図示すると、手法の特性が分かりやすくなります。

