定義
「テクニカル」には、「技術的」「工業的」という意味があります。しかし、金融の世界で「テクニカル分析」という場合には、価格や出来高などの過去の推移から、将来の価格水準や変化の方向を予測する手法を指します。
昔はチャート分析
Perry J. Kaufman (perrykaufman.com) https://perrykaufman.com/ 初版は1900年代半ばですが、今でも改訂版が販売されているテクニカル分析の解説書に「マーケットのテクニカル百科」という本があります。この著者は、「テクニカル分析とは個別銘柄は平均株価のヒストリカルな動き(値動きや出来高のパターンも含む)をグラフィカルな形で記録し、そこから将来のトレンドを推測する科学である」としています。(*1)
占いや迷信ではない
一方、航空宇宙技術者から金融界へ転身し、コンピューターを利用したシステム売買で利益が得られることを実証したペリー・カウフマンは、「テクニカル分析はブードゥー教ではなく、単に価格予測の一方式である。その分析手法は、ビジネス界で使われる販売計画や季節性分析手法と同じものである。」とし、「価格、出来高、そして取組高にルールや方程式を応用して、価格変動の特性を調べることである」と定義しました。(*2)
伝統的分析と科学的分析
同じく航空宇宙技術者で、価格推移の分析に物理学を応用して成果を上げたデビット・アロンソンは、客観的な統計的な証拠によって裏付けられて手法を「科学的テクニカル分析」、裏付けのないものを「伝統的テクニカル分析」と呼び、自身で考案した科学的テクニカル分析を利用していました。(*3)
過去の推移から未来を予測する
以上を踏まえ、当協会では、テクニカル分析を「価格などについて過去の推移から現状を分析し、それをもとに将来予測を試みる手法」と定義し、「チャートを見て分析すること」は必須ではないと考えています。
*1:ロバート・D・エドワーズ, ジョン・マギー, W.H.C.・バセッティ, 関本博英訳, 長尾慎太郎監修, 2004 「マーケットのテクニカル百科」 パンローリング
*2:ペリー・J・カウフマン, 内田晃/加藤康之訳, 1986 「金融・為替・商品のテクニカル分析-アメリカの技術と応用」 東洋経済新報社
*3:デビット・アロンソン, 山下恵美子訳, 長尾慎太郎監修, 2009 「テクニカル分析の迷信-行動ファイナンスと統計学を活用した科学的アプローチ」 パンローリング
目的
株価はすべてを織り込む
株式など、オークション方式で取引される資産の価格は、需給によって決まります。需要の数量が供給を大きく上回れば価格は上昇しやすいでしょうし、需要に比べて供給の数量が多すぎれば価格は低下しやすいと考えられます。
株価の変動要因には、金利や為替レート、天候不順や国際情勢、流行など、様々な事象があります。投資家は、インターネットやマスコミ、所属する企業や団体、友人知人など、様々な経路で多様な情報を得ており、株価に大きな影響があると考えて売買すれば株価が変動することになります。そして、投資家が納得する水準まで価格は変化します。これが「株価はすべてを織り込む」といわれる理由です。
需給の変化を察知する
景気変動などファンダメンタルズの変化に起因する価格変化は、時間をかけて緩やかに変化することも多いので、その変化の端緒に気がつけば、ファンダメンタルズの変化自体には気がつかなくても、価格変化に対応した行動がとれることになります。
個人投資家は、機関投資家のように専属のスタッフを抱えて調査することはできませんから、調査しなくても相場に対応できるというのは魅力です。テクニカル分析の目的は、ファンダメンタルズの変化に起因する場合も含め、需給の変化に注目して将来の価格推移を予想することにあります。
割安株は本当に割安か
投資の基本は、安いときに買って、高いときに売ることです。ファンダメンタルズ分析の指標をフィルターにしてスクリーニングをすると割安銘柄が検索できますが、リストアップされた銘柄は本当に割安なのでしょうか。実はその後、業績の下方修正が発表となって、修整後の指標からみれば割安ではなく妥当な株価だった、ということも珍しくはありません。
つまり、割安株には、未発表の悪材料を内包している場合と、すでに周知の懸念材料があって人気が離散している場合があるのです。両者を判別するのは、ファンダメンタルズ分析には困難ですが、テクニカル分析では見当のつく場合があります。価格や出来高の推移には、投資家が株価の現状や先行きをどう見ているかという、投資判断が反映されているからです。
投資の時間効率を改善
人気の離散した割安株の株価は、いつ回復するのでしょうか。残念ながら、すぐに戻るとは限りません。利益確定までに何年もかかる場合もあります。極端な例を挙げると、1989年12月29日に日経平均を38,915円で買った投資家は、2024年2月29日に39,166円をつけるまで、35年間待って得た利益がわずか251円だったことになります。
これでは、投資の時間効率が悪すぎます。投資期間の長い機関投資家では問題にならないのかもしれませんが、どちらかといえば投資期間の短い個人投資家にとっては大問題です。ファンダメンタルズ分析を利用して割安株をリストアップした後、テクニカル分析を利用して株価がすでに上昇を始めたものを選んで投資対象とすれば、極端に時間効率の劣る投資は避けることができるでしょう。
画像出典:陰陽五行の説明図(八木虎之巻 猛虎軒 1885)
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/803983
よくある誤解
占いや迷信と似たようなもの
明治時代には、すでにカギ足や棒足などの罫線が考案されており、罫線を見て価格推移を予想する罫線分析も行われていました。当時の日本では、相場だけではなく世の中のすべての事象が、陰陽五行に従って推移すると信じられており、罫線分析も天候や需給のほかに陰陽五行も考慮して行われていました。
昭和時代になって、海外からテクニカル分析が入ってきましたが、その中には西洋占星術を組み合わせる手法も含まれていました。加えて、相場の予想をする人の中には、従来の罫線分析と海外のテクニカル分析を組み合わせる人もいたでしょう。このような背景から、テクニカル分析は占いや迷信の要素が強いと思われたのでしょう。
しかし、別項で説明しますが、テクニカル分析は、価格分析に統計学などほかの学問の知識を応用して、どんどん進化しています。
テクニカル分析で将来の株価が分かる
テクニカル分析というと、××の分析手法で予想すると、将来○○円まで上昇しそうだから買い、あるいは▽▽円まで下落しそうだから売り、という予想を立てるための手法だと考えている人がいますが、そうではありません。
テクニカル分析で分かる可能性があるのは、ある銘柄の価格推移が、右肩上がりのトレンドに入った可能性が大きいのかちいさいのか、あるいは右肩下がりのトレンドに入った可能性が大きいのか小さいのかです。右肩上がりのトレンドに入った可能性が大きいのであれば、その銘柄を買っても良いかもしれません。反対に、持っている銘柄が右肩下がりのトレンドに入った可能性が大きいのであれば、すぐに売却した方が良いかもしれません。
西洋の初心者向けの相場指南書には、「利食いはなるべく遅くして利益を伸ばし、損切はなるべく早くして損失を最低限に抑えるのが相場で勝つ最良の方法」と書かれています。そのためには、トレンドの発生と消滅を的確に知る必要があります。テクニカル分析はそのための手法で、ファンダメンタルズ分析では知ることができません。
画像出典:本間宗久の肖像(期米相場罫線学 斎藤整軒 1912)
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/803834
罫線は本間宗久が考案した
本間宗久(1718~1803)は、出羽国庄内藩(現在の山形県酒田市)の出身で、江戸時代に米相場で財を成したことで知られています。「罫線を考案した」、「ローソク足を考案した」、「酒田五法を考案した」といわれますが、すべて事実無根だと思われます。
国立国会図書館デジタルコレクションで、インターネットで閲覧可能な本間宗久の著作を検索すると、次の3冊の本がヒットします。
「米界大王日本長者五家之一庄内酒田港本間家秘蔵宝書 訂3版」(1902、本間宗久著、早坂豊三編、旭商会)
「相場罫線術講義 : 出羽酒田港本間家秘法」(1904、本間宗久著、葛岡五十香・石川善兵衛増補、早坂二菊述、福田宇吉)
「宗久翁相場全集」(1910、本間宗久著、早坂二菊編、信義堂)
さらに、「荘内本間宗久翁遺書」(1894、早坂豊三編、鈴木喜八) という本もあります。
上記のうち「相場罫線術講義」以外はほぼ同じ内容で、いずれも「本書ハ翁自筆ノ稿本ニ因リ原本ノ儘出版セシ者ナリ」として、本間宗久が書いたものを復刻したという体裁になっています。この中には157の売買ルールや相場の心得が書かれていますが、罫線やローソク足、酒田五法に関する記述は見当たりません。
一方、「相場罫線術講義」には、本間宗久が使っていたのは陰陽切替罫線、別名酒田足だとしていますが、「株式期米相場経済学」(1909、早坂豊三著、信義堂) を見ると、この罫線を考案したのは、本間宗久の弟子で荘内鶴岡の酒造家である葛岡五十香だとしています。また、「期米株式相場認識学」(1908、早坂二菊著、信義堂) では、葛岡五十香と石川善兵衛を罫線派、本間宗久を禅学派としており、どうやら、罫線を考案したのは本間宗久ではなく、葛岡五十香である可能性の方が大きそうです。
陰陽切替足(期米相場罫線学 斎藤整軒 1912、時間軸は右から左) http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/803834 陰陽切替罫線は現在のカギ足のルーツと思われますが、「相場罫線術講義」には折れ線グラフをカギ型に書く描画法も紹介されており、外見では区別がつかないので厄介です。ちなみに、早坂豊三と早坂二菊は同一人物のようで、明治時代に出版された本間宗久の相場法を詳述した本は、すべて早坂が書いています。また、「翁自筆の稿本」が実在するかどうかは不明です。
